眠っているデザインと技術をつなぐ共創型メーカー「TRINUS(トリナス)」

増資を果たしスタートアップに舵を切った代表・佐藤真矢氏のものづくり戦略とは

2014年11月のサービス開始から4年弱で「新しい仕組みを世の中に生み出し人の流れを変えた」ものづくりプラットフォームがある。それが「TRINUS(トリナス)」だ。今年2月には総額5,500万円強の第三者割当増資を発表し、6月にも、森永製菓株式会社および株式会社メルカリ取締役社長兼COO・小泉文明氏を引受先とする資金調達を行い経営基盤を強化し軌道に乗せている。

そこで、株式会社TRINUS代表取締役の佐藤真矢氏に起業のきっかけやスタートアップへの思い、将来のビジョンなど話を伺った。

──まずTRINUSが、どういう会社なのかを教えてください。

佐藤真矢氏(=以下、佐藤氏):ネットコミュニティをうまく活用した新しいオープンなものづくりをしています。社内に多くの(人的)資源を抱えない代わりに、ものづくりプラットフォームのTRINUSには4,000名以上のクリエイターが登録しています。取引メーカーも100社以上にのぼり、ユーザー数も1万人を超えたこのプラットフォームをもとに商品開発につなげていくという会社です。

──プラットフォームはどのように運営していますか? また商品化するまでのプロセスを教えてください。

佐藤氏:世の中に存在する面白い技術をインターネット上で特集して、それを活用した商品の企画やデザインをコンペ形式でクリエイターから募集します。すると、いろいろな企画が集まってくるので、それを各ユーザーが自由に評価しブラッシュアップしたうえで商品化していくという流れです。

──たとえば、どんな商品がありますか?

佐藤氏:昨年4月発売から1年ちょっとで4万本以上を売り上げているのが「花色鉛筆」です。桜や紅梅、たんぽぽなど一本一本が花の形をしていて、削りかすが花びらのようになるのが特徴で一番売れている商品ですね。ロフトなどに出店しているニューヨーク近代美術館がキュレーションをする「MoMAデザインストア」や、フランスのセレクトショップ「Merci」など世界で販売されています。

3Dプリントによる「MINAMO(みなも)」は、金属に水面を写したお皿やコースター。また、「月のクラッチバッグ」は、月の表層データをバッグ表面に微細なエンボス加工で表現しました。持ち歩くときは三日月型になります。

「PLANT’S JEWEL(プランツジュエル)」は、神戸製鋼さんのケニファインという高機能抗菌メッキ技術をベースに、花瓶の中に入れて切り花をより華やかにしつつ水もきれいに保てるというものです。

──主力商品の数はどれくらいありますか? 全体で統一したコンセプトはあるんでしょうか。

佐藤氏:これまでに8ブランドの商品を発表しました。「技術とデザインの化学反応による驚きを」という大きなコンセプトはありますが、それぞれの商品のテイストへのこだわりは特にありません。それぞれクリエイターの思いをうまく拾い上げて商品化したものです。今後どんどん増えていく予定ですが、これからは大手企業さんとのコラボ商品も増えていきますよ。

──大手企業との商品開発、気になります…! 具体的に教えてください!!

佐藤氏:森永製菓さんとのコラボで、40分長持ちするミントチップキャンディ「TiMES(タイムス)」や、二重食感のチーズおつまみ「Cheezest(チーゼスト)」をすでに商品化し、クラウドファンディングでの予約販売を開始しました。

「TiMES」は、溶けにくく長持ちするというベースの素材技術があって、パッケージや形状、コンセプトをTRINUSで 募集し一緒に商品化までこぎつけたというものです。販売にあたり、長時間溶けないことを示す40分間の実証実験PR動画まで作りました。ただ単にデザインだけを納品するのではなく、試作開発からブランディング、メディアPR、販売まで、技術をひとつの形にして世の中に問うするところまでやるのが、他のプラットフォームとは違うところです。

そういう意味でTRINUSはメーカーだと思っています。

編集部註
1粒40分!超持続性ミントチップ「TiMES(タイムス)」
「Cheezest(チーゼスト)」

 

──商品化するにあたり「決め手」となるものは?

佐藤氏:簡単に言うと大きく2つで、「そこにお客さまのニーズが本当にあるか」と「実現できるか」です。どこでもドアが欲しいと言われても作れないし(笑)。逆に、作れるけれど誰も欲しくないものを出しても仕方がないしで、2つの条件を高いレベルで満たしているかという点を判断しています。

難しいのは、できそうだけど欲しい人がどれくらいいるのかなというケースですね。コスト的な話も入ってきたうえで(自社商品は)私がゴーサインを出しています。

──秀逸なアイデアが眠っていそうですね。面白かったけれども惜しくもボツになったアイデアもあるんじゃないでしょうか…!

佐藤氏: 「溶けにくいキャンディ素材」の活用デザイン募集では「口の中で知恵の輪で遊べるキャンディ」という企画がありましたね。口の中に残っている時間が長いため「遊び」があってもいいのではというものでした。投稿されたデザインも作り込んであってレベルが高かったのですが、安全面やコスト面から商品化には至りませんでしたね。

新しい仕組みを世の中に生み出すことで人の流れを変えたい

──TRINUS社を起業するにあたってきっかけになった出来事があれば教えてください。

佐藤氏:前職は、ものづくり系のベンチャー企業リンカーズ(株式会社)にいたのですが、そこで気づいたのは日本のメーカーには面白い技術がたくさん埋もれていて、活用されず商品に結びついていない現状にもったいないなと思っていました。

また、その前のアクセンチュア株式会社(※外資系総合コンサルティング企業)のあるプロジェクトで、多くの若手クリエイターが活躍の機会に飢えている現状を目の当たりにして…。しかも仕事を任せてみると実力もあるなと感じました。そこで、眠っているデザインのチカラと技術をネット上でつなげるといいものができるのではないかと思ったのがきっかけです。

──起業意識はいつ頃から持ち始めたのですか?

佐藤氏:「新しい仕組みを世の中に生み出すことで人の流れを変える」ことをやりたい気持ちは早い時期からありました。そういう意味では別に自分が起業しなくてもよかったのですけれども。大卒後、大和証券(株式会社)の公開引受部で上場支援の仕事をして、いろいろなスタートアップやベンチャー企業を見てきました。

2年間出向した経済産業省では、産業再生の新しい法制度を作るプロセスに携わりました。その後、アクセンチュアのあるプロジェクトでデザインと出会い、リンカーズでの技術が結びついて、事業のバックグラウンドとなっています。

──話を総合すると、前職(リンカーズ)の頃にはすでに起業準備には動いていたということですか?

佐藤氏:当初はリンカーズの別事業としてやろうとしていました。途中から社内で事業を進めるのは難しい状況になってしまったのですが、私自身はもう止まれなくて(笑)。しかし本当に良い社長で「やりたいなら独立してやれば!」と背中を押していただいて、進んでいた企画もそのまま継承し独立させていただきました。

中小企業メーカーからスタートアップへの舵取りを決意した理由とは

──今年の2月と6月に第三者割当増資を発表されています。

佐藤氏:そうですね。

──増資したことで起きた変化はどういうものなのでしょうか。

佐藤氏:それを機にいわゆる「中小メーカー」としての動きから(ビジネスモデルの革新と急成長を目指す)「」へシフトチェンジしました。そうなるとアクセルを踏むしかないので。それまでいた千代田区・神田の事務所では手狭なので、渋谷に事務所を移転したり新規採用を始めたりとTRINUSを組織化しようとしている最中です。

──スタートアップにシフトチェンジしようと決意されるに至った心境の変化を教えてください。

佐藤氏:事業を普通に始めて以来、いわゆるスタートアップ的な方向に行くのか、利益を稼いで普通に成長していくのか、どちらに舵をとるのかずっと迷っていました。中小のメーカーと組んで様々な商品開発を行っていくのもとても楽しかったので。ただ、最近では大手企業とコラボすることもあり、どうせやるならTRINUSの仕組みを通じて世界を変えていきたいと考えるようになり、シフトチェンジを決意しました。

TRINUSを世界で誰も思いつかなかったものを生み出す新しいメーカーに

──TRINUSの今後のビジョンを教えてください。

佐藤氏:世界から面白い技術とクリエイターが集まって、誰も思いつかなかったものをがどんどん生み出す新しいメーカーになれれば。そのためにはTRINUSの多言語化も含め認知度をもっと上げていかなければと思っています。まず、ユーザー(消費)側から広げることを始めています。

日本だけでなく世界展開にチャレンジしていて、ニューヨークやヨーロッパで展示会を開き、商品を通じた認知度を広げていきます。その次は、クリエイター層の裾野を世界に広げていきたいですね。世界中のクリエイターがコンペに参加する状況を作りたいです。

 

──最後に、現在のメーカーとしての事業以外に、自社をさらにブーストさせるための新規事業アイディアを教えていただけますか?

佐藤氏:TRINUSはバーチャルに近いコミュニティであるぶん、リアルが弱いと言いますか。そこで、リアルでも集まることができるコワーキングスペースのような、クリエイター向けのリアルコミュニティの創設を考えています。

TRINUSの場合、大手企業とのコラボ企画を持ってくることができるので、コワーキングのメンバーに直接発注できる機会を作れれば。それに付随して、プロダクト系クリエイターの人材紹介業も考えています。

大手企業さんには、プロジェクトベースで直接発注できるクリエイターやデザイナーが欲しいというニーズがあります。それに応えることでクリエイターと企業との橋渡しになれれば。 また、TRINUSの認知度を上げていくための情報発信メディアも立ち上げてみたいですね。

起業家に心強いGOAL融資支援サービス

──行政書士法人GOALでは 、スタートアップやベンチャー企業に対する士業のほかに起業に関する財務相談も行っていますが、御社含め財務面でのサポートニーズはどの様なところにあると感じますか?

佐藤氏:私は金融機関出身ということもあり、融資の書類や事業計画書などは自分で作ってしまうところもありますが、一般的なスタートアップで考えると、若い子も多いし、本業に集中するべきときに、ファイナンスの負担が重すぎると時間を取られすぎるということもあるので、融資のプロが一緒にサポートしながら起業していくやり方のほうが成功する可能性が高いと思います。

──融資や財務計画に業務コストがかかりすぎるあまり、営業に力を注げないとこぼす経営者の話も聞きます。そんなとき、佐藤さんの思う「財務的な専門家がそばにいることのメリット」とは何ですか?

佐藤氏:財務専門家のメリットはありますね、きっと。TRINUSの場合は税理士が役割をカバーしてくれています。ただ、スタートアップに舵を切りVCなどの株主等が求める様々な報告などを作成していくうえで、その作業に時間を取られてしまう場合もあります。そういうときは、すべてをお願いできて、「この場合はこの書類を出してください」と的確な指示を出してもらえれば助かりますね。

──実際、起業時に財務のサポーター的立場の方がいれば心強いものですか?

佐藤氏:まず、起業したばかりの会社だと、創業者(CEO)、システムエンジニア(CTO)と営業担当くらいの最小構成が普通で、財務の専門家である CFO(財務最高責任者)はいないのが普通じゃないでしょうか。ファイナンスのプロが入ってくるのは上場準備を見据えたくらいの相当あとのフェーズになってきますよね、TRINUSにもまだいませんし。

では、それまでの期間、「誰が財務を見るのか?」ということになります。普通、CEOが見ることになるのですが、私のようなCEOが金融機関出身者であることは例外的。その場合、適切な意思決定ができるサポーター的立場の担当者がいれば非常に心強いと思います。ただ、起業したばかりの企業にとって CFO的なフルタイムの仕事もそう多くはないこともまた事実です。

──そういう企業に対して、現在GOALが行っている外部の非常勤CFO的なサービスを提供された場合、どの様な内容を望まれますか? またこういったサービスについてどう思われますか?

佐藤氏:ありだと思いますね。非常勤CFOのサービスに追加するならば、新しいファイナンスや有用な社内ツールに関する情報など、その会社向けにカスタマイズした独自の提案など逐一行ってくれるとうれしいですね。弊社でもそのようなニーズは高いです。

<関連リンク>
TRINUS (トリナス) | 技術とデザインの化学反応による驚きを

【佐藤真矢氏プロフィール】

早稲田大学商学部卒業後、2003年に日系投資銀行の大和証券SMBC(現大和証券)に入社。ベンチャー企業の株式上場や上場企業のファイナンス業務を担当。また、同社在籍期間のうち2年間は経済産業省に出向し産業政策の立案に携わる。2009年よりアクセンチュア戦略グループにて事業会社や公的機関の戦略策定及び実行支援に従事。オープンイノベーションを支援するリンカーズのCSO&CFO を経て、2014年株式会社TRINUS 設立。

インタビュアー/カメラマン 佐藤アケミ

投稿者プロフィール

若林 哲平
若林 哲平
行政書士法人GOAL_INQ代表
GOALグループ共同代表
スタートアップ/スモールビジネスのデットファイナンス()のサポートに特化した行政書士・認定支援機関。東京都のASAC(青山スタートアップアクセラレーションセンター)のメンターも務める。
キャンプが好き。
4児の父。