この記事は産業廃棄物の排出事業者、そして産業廃棄物収集運搬業や産業廃棄物中間処分業などの処理業を営んでいる方向けの記事です。
産業廃棄物の処理について作成する義務がある委託契約書ですが、作成だけでなく5年間の保管の義務もあります。
ではこの委託契約書、何通作成すればいいのでしょうか?
委託契約書が必要な根拠について
廃棄物処理法は、「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」と規定し、廃棄物を排出する側の処理責任を明確にしています(法第3条第1項)。これは排出事業者責任と呼ばれ、廃棄物処理の重要な原則になっています。
廃棄物の処理をする側だけでなく、廃棄物を出す側にも責任を持たせることで、適正な処理を推進し、より良い環境を構成に残していこうという趣旨ですね。
ただ、自らの責任で適性に処理するといっても、自分で中間処分や最終処分するのは難しいでしょうから、処理業者に産業廃棄物の処理を委託し、排出事業者と処理業者の間で適正な委託契約を結ぶ事が必要になります。
委託基準とは
適正な委託契約を結ぶためには、法で定める委託基準に従うことが必要とされており、具体的には下記を満たすことが求められています。
- 処理を委託する相手は処理業の許可を有する(または規則第8条の2の8及び第8条の3に定める)者であること。(令第6条の2第1号、第2号)
- 委託する業者は、委託しようとする産業廃棄物の処理が事業の範囲に含まれていること。(令第6条の2第1号、第2号)
- 委託契約は書面で行うこと。(令第6条の2第4号)
- 特別管理産業廃棄物の処理を委託する場合は、委託する者に対してあらかじめ特別管理産業廃棄物の種類、数量、性状、荷姿、取り扱い上の注意事項を書面で通知すること。(令第6条の6第1号、規則第8条の16第1号、第2号)
- 契約書及び契約書に添付された書類を契約終了日から5年間保存すること。(令第6条の2第5号、規則第8条の4の3)
- 収集運搬の委託は収集運搬業の許可を持つものと、中間処理(再生を含む)または最終処分の委託は処分業の許可を持つものと、それぞれ2者間で契約すること。(法第12条第5項)
委託契約の内容とは
契約内容を明確にするため、委託契約は書面で行うことが義務付けられています。(※電子契約書も可能)
書面への記載が必要な事項は以下のようになります。(令第6条の2第4号および規則第8条の4の2)この法定記載事項が欠如している場合や実際に委託された内容と異なる場合には、委託基準違反として罰則が適用されます。
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契約書の共通記載事項
- 委託する(特別管理)産業廃棄物の種類および数量
- 委託契約の有効期間
- 委託者が受託者に支払う料金
- 受託者の事業の範囲
- 委託者の有する適正処理のために必要な事項に関する情報
- (ア)性状および荷姿
- (イ)通常の保管状況の下での腐敗、揮発等性状の変化に関する事項
- (ウ)他の廃棄物の混合等により生ずる支障に関する事項
- (エ)日本工業規格C0950号に規定する含有マークの表示に関する事項
- (オ)石綿含有産業廃棄物が含まれる場合には、その事項
- (カ)特定産業廃棄物が含まれる場合には、その事項(放射性物質汚染対処特措法施行規則附則第5条)
- (キ)その他、取り扱いに関する注意事項
- 委託契約の有効期間中に前項の情報に変更があった場合の伝達方法に関する事項
- 委託業務終了時の受託者の委託者への報告に関する事項
- 契約解除時の処理されない(特別管理)産業廃棄物の取り扱いに関する事項
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運搬委託契約書の記載事項
- 運搬の最終目的地の所在地
- (積替保管をする場合には)積替えまたは保管の場所の所在地、保管できる産業廃棄物の種類、保管上限に関する事項
- (安定型産業廃棄物の場合には)積替えまたは保管の場所において、他の廃棄物と混合することの許否等に関する事項
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処分委託契約書の記載事項
- 処分または再生の場所の所在地、処分または再生の方法および処理能力
- 最終処分の場所の所在地、最終処分の方法および処理能力
契約書は1通作成でもいいのか?
通常、契約書は当事者同士が相手方に対して成立した契約の内容を証明するために作りますので、各契約当事者が1通ずつ所持します。
その場合にはそれぞれについて印紙を貼ることになりますが、ではこの場合、1通のみを正本として保管し、そのコピーを相手方が保管することで、コピーには印紙を貼らないということは可能なのでしょうか?
国税庁のHPには下記のように書かれています。
契約書は、契約の当事者がそれぞれ相手方当事者などに対して成立した契約の内容を証明するために作られますから、各契約当事者が1通ずつ所持するのが一般的です。この場合、契約当事者の一方が所持するものに正本又は原本と表示し、他方が所持するものに写し、副本、謄本などと表示することがあります。しかし、写し、副本、謄本などと表示された文書であっても、おおむね次のような形態のものは、契約の成立を証明する目的で作成されたことが文書上明らかですから、印紙税の課税対象になります。
- (1) 契約当事者の双方又は文書の所持者以外の一方の署名又は押印があるもの
- (2) 正本などと相違ないこと、又は写し、副本、謄本等であることなどの契約当事者の証明のあるもの
なお、所持する文書に自分だけの印鑑を押したものは、契約の相手方当事者に対して証明の用をなさないものですから、課税対象とはなりません。
また、契約書の正本を複写機でコピーしただけのもので、上記のような署名若しくは押印又は証明のないものは、単なる写しにすぎませんから、課税対象とはなりません。
同じく、ファックスや電子メール等により送信する場合も正本等は送付元に保存され、送付先に交付されておらず、送付先で出力された文書は写しと同様であり、課税対象とはなりません。
このように、印紙税は、契約の成立を証明する目的で作成された文書を課税対象とするものですから、一つの契約について2通以上の文書が作成された場合であっても、その全部の文書がそれぞれ契約の成立を証明する目的で作成されたものであれば、すべて印紙税の課税対象となります。
このように、契約書のコピーを保存するのは、「契約の成立を証明する目的」といえますから、コピーであっても印紙の課税対象であるといえます。
ですので、1通しか正本を作成していない事自体は可能ですが、契約の成立を証明する目的で保管しているコピーは印紙税の対象になり、当該に印紙の添付がない場合には、印紙税の脱税になってしまうのです。
このように契約書については印紙税の問題もありますし、内容に不備があると委託基準違反に該当してしまう可能性もありますので注意が必要です。
より詳しく知りたい方は下記の書籍もチェックしてみてくださいね。
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