「はれのひ」事件がなぜ起きてしまったのかを財務の視点から考えてみる

2018年1月8日の成人式に前代未聞の事件が起きました。
着物着付けの専門店「はれのひ」が成人式本番で夜逃げ。着物難民が続出するという事態に。

一生に一度の晴れ舞台のはずが…。
被害に遭われた方には本当に気の毒な事件です。

「はれのひ」を運営する「はれのひ株式会社」は1月9日に全店舗を封鎖。
事実上の事業を停止しました。
報道によると直接の原因は資金繰りが悪化したことが原因とのことですが、1/10現在、真相はまだ明らかになっていません。

なぜこのような事態が起こったのか。他に何が策は無かったのか。
この問題を財務の視点から考えて見ようと思います。

資金繰りの悪化

29年より取引債務や従業員給与の支払遅延が発生するなど信用が低下。一部店舗では30年1月7日より従業員が出社せず、8日の成人の日には予約していた晴れ着が届かないなど、各地でトラブルが表面化。
はれのひ(株) : 東京商工リサーチ

1/10現在、真相は定かではありませんが、これまでの報道によると昨年から資金繰りが悪化していたことが原因のようです。
従業員の給与が払えず一部店舗では従業員が出社しなかったことなどで今回のトラブルの一因となった様子。
資金繰りの改善には当然、利益を上げるための業務改善、支払いサイトの改善など根本からの解決が必要ですが、やはりいざという時の特効薬は銀行の融資を考えたいところです。

このような事態になる前に助けてくれる銀行は無かったのか。

そもそも会社が夜逃げ前提で助けを求めていなかった可能性もあります。
それは事件の究明を待ってからとなりそうですが、謎を紐解くヒントは報道の中にありそうです。

負債総額は6億円

負債総額は約6億1000万円(平成28年9月期時点)で、うち金融債務が約4億円。
はれのひ、3億2000万円の債務超過だった (東京商工リサーチ) – Yahoo!ニュース

6億円の内、4億が金融負債とのこと。
この金額を見るとよく借りられたなという印象ですが、売上が右肩上がりの好景気の時に借り入れを起こしていると思われます。

4億円を仮に銀行から金利2%の15年返済で借りていたとすると月の支払いは実に月250万円。
直近は毎月赤字を計上していたと思われますので、直近の返済が出来ていなかったものと思われます。

銀行はもしかすると再建を信じて銀行ができるところまで危険を承知で踏み込んでいたのかも知れません。

3億2000万円の債務超過

売上は28年度には3億8000万円まで拡大していたにも関わらず、同年の決算では3億6000万円の赤字を計上しています。
何があったのかは不明ですが(後の報道では海外進出の失敗とされています。)、単純計算で(3億8,000‐X=-3億6,000)少なくとも一年で計7億程の費用を計上していることになります。

そして同年はその赤字が影響して3億2000万円の大幅な債務超過となっています。

債務超過についてはこちらの記事を参考にしてください。
資本金「1円」の社長が気づいた「債務超過」の重要性 – GOAL MAGAZINE

この債務超過を頼みの綱である銀行はどう見ていたのでしょうか?

実は銀行は企業の格付けをしています。
これほどの債務超過に陥れば、格付けは破綻懸念先などの格付けの下の下になっている可能性が高く、その状態での追加融資は限りなく不可能です。

さて、ではなぜこれだけの債務超過が膨らんでしまったのでしょう?

もちろん利益が出ない営業体制であることは火を見るより明らかなのですが、資本金の少なさに注目してみます。

資本金がたったの150万

これだけの売上と経費の規模の事業であるにも関わらず、資本金はなんとたったの150万円。(周囲には1000万と吹聴していたようですが)

これが意味するところは、総資本が資本金の150万円だけだとすると、単純に150万円以上の赤字を出してしまっただけで債務超過になってしまうということです。
債務超過の逆を資産超過といいますが、ほんの少しでも資産超過になっているだけで、銀行の目はガラリと変わります。

それだけ決算書は銀行にとって大事なものだということですね。

今回のケースが起きないためにはどうしたら良かったのか

そもそも経営者が夜逃げ前提で話を進めていた場合は別として、もし本気で企業を立ち直らせたい場合はどうすべきだったのでしょう。

いざというときの銀行の融資は、資金繰りが悪化することが予測されている企業にとっては特効薬ですので、いつでも融資が受けられる財務基盤を作っておくことが最も重要になります。

ただ、いくら融資を受けられても、営業体制自体に問題があり利益が出ない体質であれば、バケツに空いた穴のごとくお金は流れ出てしまうだけですので、当然真っ先に行うのは利益を出すための営業体制の改善です。

それと同時にバケツの穴から流れ出る水をどうにか止めなければなりません。

具体的には、支払サイトの見直しや、銀行返済の延期を交渉するリスケは必須で検討することになるでしょう。

もっと早く手を打っておくことが出来たのであれば、流れ出る水を止めようとするのと同時に、増資か第三者からの出資を受けることで資本の増強を行っておくべきだったかも知れません。
資本を増強し債務超過の解消が早い段階でできていれば、突然の営業不振にも銀行が手を差し伸べてくれていたかも知れませんね。

まとめ

すべて憶測の域を出ませんが、この報道を見ると少なくとももっとやれることがあったのではないかという気がしてしまいます。

銀行との付き合いが全てではありませんが、事業を拡大する上では銀行とは切っても切れない関係です。
より良い関係を築き、事業拡大のタイミングや資金繰りに窮した時に頼れる状況を作っておくことが重要です。
そのためには、しっかりとした財務基盤を作っておくことが重要なのです。

「はれのひ」がどこまで対策を行っていたかはわかりませんが、倒産直前になって慌てても出来ることは限られます。
改善の着手が早ければもっとやれることがあったでしょう。

財務改善は地道な作業を時間をかけて一定期間継続する必要があります。
資金繰り表や決算書のデータを元に事業の行く末を理解して見据え、なるべく早期に取り組むことが大切ですね。

(※)この記事を書いていたのが1/10ですが、本日1/11、6億の負債は海外進出が失敗したことによるものと報道されていました。

投稿者プロフィール

武田 信幸
武田 信幸
1981年生まれ。千葉県出身。
スタートアップ期の銀行融資や補助金等、資金調達の専門家。
行政書士の傍らインストロックバンド「LITE」のギタリストとしても活動している。行政書士業と共に年2,3回の海外ツアーをこなす「行政書士×ミュージシャン」のパラレルワーカー。